今朝も道場では早朝稽古が始まっている。
今日は沖田と永倉が、隊士の稽古をつけていたのだが………
珍しい人物が道場に現れ、はもとより、沖田や永倉でさえ目を丸くした。





「土方さん…おはようございます。」
「珍しいなぁ、アンタがここに来るなんて…」





「たまには剣を振わないと、体が鈍るからな。」
そう言ってフッと笑うと、土方は木刀を手にし、道場の中央へと進む。
立ち向かっていた隊士を軽々とあしらっていく。
「す……凄い」
にとって、土方が剣を振るう姿を見たのは、これが始めてだった。
強い…という噂は聞いていたが、これほど強いとは…



「驚きましたか?」



すっかり言葉を無くしてしまったの様子を見て、沖田が笑いながら声をかけてきた。
「はい……あれで師範代の腕だなんて、信じられません。」
「あぁ、それはですね。土方さんが道場に入門するのが遅かったから…。
実力だけで言えば十分に免許皆伝の腕前だと思いますよ。」







「次!誰か打ち込んでこい!」







そう叫ぶ土方の声で、ははっと我に返った。
土方に稽古をつけてもらえる機会なんて、そうあるものではない。



この機を逃しちゃダメだ!



そう思ったは木刀を手に取ると、土方の前へ歩み出た。


……いいのか?女だからといって、手加減はしないぞ?」
「はい!よろしくお願いします!」
「……………いいだろう」


土方の一刀を受けとめて、改めては思った。
本当に強い…それに…
「…………くっ…!」
「どうした?受けてばかりじゃなく、たまには打ち返してみろ!」
打ち返せるものなら、とっくにそうしてるだろう。
今まで彼女に稽古をつけてくれた人間の剣は、
型に忠実で太刀筋も幾分か読むことができたのだが………
土方の剣は、掴みどころが無く、
寸での処で受けとめるのが精一杯で、打ち返す余裕などない。
一太刀でいいから打ち返したい……
がそう思ったのもつかの間、土方が大きく振りかぶった瞬間、
踏み止まろうとしたの足は、先ほどまで稽古していた隊士達の汗で滑ってしまった。






「…………!!」






体勢を崩したは、土方の一太刀を、
まともに食らってしまい、そのまま意識を失った。















あれから、どれくらい時間が経ったのかな?
稽古を付けてもらう、とか言いながら、全く稽古にもならなかった。
むしろ忙しい土方さんの、貴重な時間を潰してしまって申し訳ない気すらする。

薄れた意識の中で、はそんなことを思っていた。




「……………ぃ!しっかしりしろ!!」




誰かの呼ぶ声で、は目が覚めた。
目を開けると、目の前には心配そうに覗きこむ土方の顔があった。
「えっ…!?」
慌てて起き上がろうとしたが、眩暈がして、それは叶わなかった。


「無茶をするな。脳震盪を起こしているんだ。」





もしかして、私って今土方さんの膝の上で…!?





自分の状態を、改めて自覚して、顔から火が出そうになる。
「ごっ…ごめんなさい!」
「しばらく横になっていろ!」
再び起きようとしたを、今度は土方の手が制した。
「それに謝らなければならないのは、俺の方だ。すまなかったな。
お前が体勢を崩した時に止めきれなかった…」
そう言って、の額を冷やしている土方の顔は、なんだかいつもと違うように見えた。
いつもの厳しい土方ではない。
柔らかな光りを宿した瞳で、ただ黙ったままを見つめている。




「あの……土方さん?」




「これが真剣での斬り合いだったら…と思うと、ぞっとするな。」
そして、に聞こえるか聞こえないか分からないほどの、小さな声で呟いた。



「お前がいなくなると困る。」



「あの…今何て?」



が聞き返すと、土方は眉間にしわを寄せ、焦るようにから目を逸らした。
「いや……それより、お前今日は非番だったか?」
「いえ、巡察の日ですけど……」
少し考えた後、土方から返ってきた言葉は……


「今日の巡察は、替りに俺が行こう。」


「え、でも土方さん忙しいのに…」
「人の好意には素直に甘えておけ。とりあえず、今日は安静にしてろ、いいな?」





の頭を撫で、優しく微笑むと、土方は彼女を部屋まで送り届け、
その後巡察へと出かけていった。
との巡察を楽しみにしていた隊士達が、偉く気を落としていたとか…









あとがき

土方さんに剣の稽古をつけてもらったらどうなるんだろう?
という願望と、膝枕されてみたい…という願望が合さってできたお話です。
肩書きは師範代でも、実践となると滅法強いという土方さんを書きたかったのです。
そして、ほんのりラブラブな雰囲気も出ていれば…と。
この話の続き(?)として、お題「贈り物」と連携させるつもりです。
今しばらくお待ち下さいねvv



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